私たちのほとんどが、1日の90%の時間を室内で過ごす。その生活環境をテクノロジーによってより良くしようという「スマートホーム」のコンセプトも、身近なものになりつつある。

今回SPERO編集部がインタビューを行ったCubeSensorsは、2013年に販売されてから世界50カ国以上に配送されたスマートホームセンサー、“CubeSensors Cubes”を開発したスロベニア発のハードウェア・スタートアップだ。同年にはLAUNCH FestivalでBest Hardware Awardを受賞した実績を持っています。

現在は、このプロダクトを再デザインした“Koto”の販売に向けて活動している同社CEO、アレス・スペティック氏に、CubeSensorsの製作におけるエピソード、そしてスマートホーム市場の現在地と未来予想図について話を聞いた。

 

室内環境にソリューションを

——まず最初に、CubeSensorsを着想したきっかけについて教えて下さい。

 
アレス・スペティック氏(以下、スペティック):
きっかけのひとつだったのは、実は自分の娘なんです。娘は冬の間、よく病気になっていたのですが、その娘がある日、「なぜ冬にいつも具合が悪くなるの?」と私に聞きました。単純に「外が寒いから」と答える父親もいるかもしれませんが、でもエンジニアとしてそれは違うと知っている。なぜなら、風邪ウィルスは気温には敏感ではないからです。
そしてこのことについて調べ始めたところ、主な理由のひとつとして冬の間は室内の換気状態が著しく悪いということが分かりました。もちろん、室内環境が悪いということをわれわれは知っているのですが、それを測定するということはしていません。これがきっかけで、どれだけ環境が悪いのか、そしてそれがどのように影響を与えるのかについて測定できないかと考えました。

 

——スマートホーム業界において、室内環境の過ごしやすさに大きな影響を与える様々な要素を、小さなセンサーひとつで計測するというCubeSensorsのコンセプトは、どのような点に競争優位性があるとお考えでしたか?

 

スペティック:我々の製品以前には、室内環境を測ることができる製品はありませんでしたし、自分たちはこの変化のまさにスターティングポイントにいたと言えるでしょう。もちろん、プロ用の測定器具などはあったのですが、それはあくまでも修理屋を家に呼んで計測してもらうというもの。
しかし、CubeSensorsはデザイン性のある小型の製品で、それを家のどこかに置くだけで、室内環境に関するありとあらゆるのものを測定することができるのです。このように「室内環境を定量化すること」がCubeSensorsの開発当初のコンセプトでしたが、ユーザーが本当に知りたいのは数字ではなく室内環境に対するソリューションです。
そして、われわれの提供するソリューションの強みは、室温や気圧など異なる項目を感知して、それを相互に関連付けることができるという点です。例えば気温と異なる要素、湿度や空気品質を関連付けてみることで、室内環境についてより知ることができるのです。

 

——具体的にはどのようなソリューションが可能なのでしょうか。

 

スペティック:例えば、ビルで暖房が使われると湿度が急激に下がり、これにより呼吸器系が敏感な人たちが乾燥が原因で咳をしたりします。そして人々は通常、空気の乾燥を感じるまでその原因がわからないが、われわれの製品はそれよりも前に感知することができるので、対処ができるのです。これが、他の誰にもできないわれわれ独自のソリューションです。

 

地元サプライヤーとの連携

——2014年にTechCrunchが主催したCES Hardware Battlefieldで見事一位に輝いたCubeSensorsでしたが、スロベニア初のCubeSensorsが世界的な注目を集めるに至るまでには、どのような困難がありましたか?

 

スペティック:一番難しかったのは、われわれは小さなスタートアップなので、サプライヤーから気に入られなければならなかったということです。例えば数千単位の発注であれば、サプライヤーの最低発注量を下回ることが多い。つまり、交渉の際に十分な力がないということです。もし彼らが何か間違ったことをしたり納期が遅れたりしたときでも、それに対してプレッシャーをかけにくい。
例えばもし15社の異なるサプライヤーがいたとしたら、その全てが納期にきちんとした質のいい製品を届けるのを待たなくてはならないし、交渉力がない分これらすべてをコントロールするのは単純にとても難しい。サムソンのような、非常に多くの単位でオーダーする大企業とわれわれは立場が異なるのです。

 

——製造工場やサプライヤーを選ぶにあたっては、どのような基準を設けましたか。

 

スペティック:CubeSensorsを始めた当初は初心者で、ハードウェアの製造プロセスについて詳しいわけではなかったため、生産ラインの状況をしっかり自分たちで把握しておかなくてはいけないと肝に銘じていました。そこでもしアジアに工場があったら、生産ラインのチェックをするために飛行機に乗って1〜2日かけてそこまで行かねばならない。これは小さなスタートアップに関しては致命的なコストです。
特に、自分たちはプラスチックに特殊な要求があったので、オフショア製造は不可能だと判断し、バッテリーの組み立て以外に関しては自分たちの近くにある工場か、ヨーロッパにあるサプライヤーを選びました。
地元のサプライヤーは当初こそ私たちの異なる要望の一つ一つに対応できるほどの熟練度を持っていませんでしたが、自分たちが色々試行錯誤する中で経験を積んで、どうやったらよりよくできるかを一緒に学んでいったので、今ではサプライヤーに対してどうすべきかを伝えることができます。

 

スマートホームの過去・現在・未来

——先ほど、CubeSensors以前には一般家庭用のモニターは存在しなかったと仰いましたが、2013年当時のスマートホーム市場について教えてください。

 

スペティック:自分たちが製品開発を始めた当時は、あのNestですらまだ製品を発表していませんでした。なので、CubeSensorsはスマートホーム商品の第一波のひとつだったと言えます。
しかし、スロベニアを拠点としている私たちは資金が潤沢ではない分、同時期に起業したスタートアップに比べると開発は遅かったですね。そのため、自分たちが製品をローンチした頃までには、Nestや他の企業がすでに製品を発表していました。ただ、逆に開発が遅かったおかげで、市場全体としてはすでに活性化している状況のなか商品を発表することができましたね。

 

——当時と比較して、ハードウェアスタートアップを取り巻く状況で大きな変化はありましたか?

 

スペティック:3年前とは大きく異なる要素として、クラウドファンディングを取り巻く状況が挙げられます。これは昨年開始したIndiegogoでのキャンペーンをキャンセルした理由のひとつでもあるのですが、3年前ならまだしも、現在のIndiegogoはもはや飽和状態で、たくさんのキャンペーンが同時並走しているため、望む効果が得られにくくなっているのです。
3年前であれば、すでに配送の実積がある成功した製品があれば、信頼があり多くのサポートを得ることができました。しかし、いまKickstarterやIndiegogoのようなクラウドファンディングでキャンペーンを行っても同じようにはいきません。なぜなら、多くの失敗したプロジェクトがあるため、ユーザーが信頼をおけていないからです。

われわれは配送時期が不確定だったということもあり昨年に開始したKotoのキャンペーンを取り下げましたが、“TAKE THE MONEY but DON’T DELIVER”(資金は集めたが配送はしない)というクラウドファンディングの罠に陥らないように、予約は募ったが資金は集めていません。今後の考えとしては、クラウドファンディングを取り巻く環境が変化しない限りは、クラウドファンディングを活用する予定はおそらくないでしょう。それよりも、在庫を確保して、注文があったときに24〜48時間以内に届けられるような状態にしたいと思っています。

 

——スタートアップ企業の参入が増加する一方のスマートホーム市場ですが、今後の業界全体の動向をどう見ていますか?

 
スペティック:今後はアップルやサムスンといった大企業の間での競争がより激化していくと思います。これらの企業はみんな、独自のスマートホーム・プラットフォームを提供しようとしている。なので、小さなメーカーがそれら大企業との競合を避けるためには、これらのプラットフォームに対するサポート製品を提供するような立場で戦わなくてはいけなくなるかもしれません。
さらに、スマートホームの市場では今後もっといろんなプロダクトが統合されていくと思います。元々、携帯電話などとは異なり、家電は耐用年数が通常5〜15年あるので買い替えの周期は遅かったですが、今後、この周期はより遅く、変化はとても大きくなると思います。ちょうどこの1〜2年以内に、エアコンや他の家庭用電化製品の大半が相互に繋がっていくと予想されるので、そこが大きな勝負ポイントになると思います。

 
——それでは最後に、CubeSensorsの未来予想図を教えてください。

 
スペティック:まずは自分たちの製品をできる限り沢山の人に届けることですね。資金調達、環境、市場がどうなっていくかによりますが、競争力のある製品ですし、実際に需要も大きい。もしこの事業をスケールできなけば、成功はできないでしょう。なので、どのように前進していくかを決めなければなりません。
自分たちは今取り組んでいる製品の分野に関して一番熟練した専門家であると思っていますので、この製品が成功すればそれを拡大させます。仮にこの路線を追いかけないとしたら、新しいアイデアや新しいメンバーの力によって、もっと大きい何かに取り組む可能性もあるかもしれませんね。