ハードウェアスタートアップと大企業、彼らは今相異なる課題を抱えている。

ハードウェアスタートアップは柔軟なアイデアを量産に結びつける知識やノウハウを欲している。かたや大企業側も、これまでの豊富な量産ノウハウを持っている一方で、成熟しているが故に革新的なアイデアが出て来にくくなっているのだ。

この互いが持つ強みと弱みをうまく掛け合わせ、成功したハードウェアが今回紹介するQrio社のQrio Smart Lockだ。

Qrio Smart Lockは、ベンチャーキャピタルのWiLとSONYとの共同開発から生まれたスマートロックである。簡単な取り付けで、自宅の扉を瞬時にキーレス化することができる。鍵を出すことなく、スマートフォンで扉を開けることができるというのは実に気持ちがいい。さらに家を出るときは自動で施錠してくれるという気の効きようだ。その上、家族や友人などの急な来客の際には、指定した時間だけ、スマートフォン上で鍵をシェアすることも可能である。

Qrio Smart Lockはどのようにして生まれたのか。Qrio Smart Lockが乗り越えてきた課題とこの先描くビジョンは何なのか。今回はQrio社の事業開発部マネージャーである高橋 諒氏にインタビューをお願いした。

 

不動産経験から生まれたアイデア

−−−Qrio Smart Lockのアイデアを着想して、SONYに持ち込むに至った経緯を教えてください
 
高橋 諒氏(以下、高橋):元々WiLはベンチャーキャピタルとしてシリコンバレー等における投資を行う一方で、日本の大企業のイノベーションを推進していきたいというミッションもありました。大企業の中ではイノベーションを進めにくい部分もあり、そうした大企業から出資を受けて、共同で一つ事業をやってみようということになったのです。

Smart Lockのアイデアは、WiLの共同創業者である西條氏の不動産業務経験から生まれました。西條氏は複数の不動産を所有していましたが、不動産会社とのやりとりや来店のスキームに、日々不便を感じていました。その中でスマートロックという製品に注目したのです。当時日本ではほとんど馴染みのなかったスマートロックですが、アメリカではアップルストアや家電量販店、ホームセンターで売られているくらいメジャーな製品でした。日本での課題意識と海外での市場性から、このスマートロックを製品第一弾と決定し、SONYに対して提案したと聞いています。

 
−−−なるほど。そこからSONYとの合弁会社設立に至ったのですね。その後、Makuakeではなんと目標金額の17倍にあたる2545万円の調達に成功しました。当初はどのような層をターゲットにされていたのですか?

 
高橋:Makuakeへの出品はお客様の声を聞くことが主な目的でしたね。当初は一般消費者もさることながら、一番は若いガジェット好き、新しいもの好きの方々に買ってもらえると想定していました。しかし、実際は40歳前後の男性が最も多く、想像以上に年齢層が高かった。想像の部分ですが、1990年代後半のPC黎明期にガジェットを弄っていた世代が、Smart Lockのような新しいハードウェアに魅了を感じていただいたのかな、と思います。

法人向けのターゲットとしてはオフィス向けの他、不動産の内見用途も今後利用を拡大していきたいと考えています。不動産の管理会社は仲介業者と違って店舗数が少ないので、意外と遠い物件も多い。そう言った時にこのQrio Smart Lockがあれば、お客さんのスマートフォンを経由して簡単に鍵を渡すことができます。また仲介業者にとっても、お客さんが今からこの物件見に行きたいという時に、一度鍵を取りに行くという手間をなくし、機会損失を防ぐことができるのです。

 

順調に進んだ量産。しかし…

 
−−−多くのハードウェアスタートアップが知識や経験の欠如から量産に苦労する中、今回Qrioはソニーと提携したことで量産という課題はクリアすることができたのでしょうか。

 
高橋:そうですね。量産はSONYに協力していただきながら進めることで、設計不良を一つも出すことなく終えることができました。

一方で、スケジュール的な課題はありました。通常ものづくりには既存の技術を使っても、概ね1年半から2年の時間がかかります。そこを、今回はQrio Smart Lockという全く新しい製品を8ヶ月で完成させました。しかし、これはかなり厳しいスケジュールで、結局当初5月に出すものが8月になってしまったりと、時間の面ではかなりカツカツでした。

 
−−−量産には設備やノウハウだけでなく、スケジュールやプロジェクト管理も非常に重要な要因になってくるのですね。逆に量産以外で現在課題になっていることはありますか?

 
高橋:大きく2つあると考えています。1つ目はもっと拡販していくこと。Qrio Smart Lockは「2万円以上したら買わないだろう」という需要サイドの予測から値段が決められました。それに合わせて製造原価を下げるためには、やはり数を出していく必要があります。そのためにも前で述べたような不動産業界向けソリューションとしてQrio Smart Lockを提供していきたいと考えています。

2つ目はお客様評価の向上です。製品テストに関しては、当然製品の発売前に繰り返し行っていました。しかし実際に発売してみると、ドアが分厚い、隙間がなくて電波が届かないないなど、実際の環境は想定していたよりもかなり厳しいものだと分かりました。この問題に関しては、昨年11月のアップデートで電波を強くするなどの対策をしっかりと取らせていただきました。その成果もあって、通販サイト等でのレビューもかなり改善したと思います。しかしソフトウェア等まだまだ改善できるところは残っているはず。そういった部分も含め、今後もQrio Smart Lockをより良いものにしていきたいと考えています。
 

安心安全に住める家づくりを目指して

−−−今後のビジョンについてお伺いします。Qrio Smart Lockを通して、人々の生活をどのように良くしていきたいとお考えですか?

 
高橋:私たちはスマートロックを提供するためだけに会社を立てたという訳ではないんです。家の中にインターネットが取り入れられることによって、意識しなくて良いことが増え、生活がより便利になる。こうした状態を目指していきたいと思っています。Qrio Smart Lockはあくまでその入り口にすぎません。今後は他のスマート家電も展開していき、Qrio Smart Lockと組み合わせることで、安心安全に住める家づくりを実現していきたいと考えています。

今年の秋頃には新しい製品を発表できる予定ですので、楽しみにしていてください。

 
−−−最後に、ハードウェアスタートアップに一言お願いします。

 
高橋:
ハードウェアというまだまだハードルが高い領域で、ビジネスを成り立たせながら自分たちの作りたい製品にチャレンジしているハードウェアスタートアップは、いつもすごいなと思っています。自分たちも負けないように、これからも一緒に業界を盛り上げていきましょう!