「人工知能」といえば、読んで字のごとく、最先端技術を駆使した“コンピューター頭脳”のこと。では、もしもその頭脳に“人格”と“手足”が備わったら……?
日本に暮らす私たちにとって、この質問が意味しているのは「未来的なファンタジー」だけではない。手塚治虫や藤子不二雄など、20世紀の日本文化が産み出した最良のSF表現のなかで、人工知能はくりかえし悩み、涙し、彼らをとりまく人間の生活と血の通った関係を作りだしてきた。
言ってみれば、私たち日本人にとって「ロボット」とは、前世紀から連綿と受け継がれてきた文化的な記憶の、重要な一部なのだ。

AKA社は、アメリカと韓国に拠点を置く国際的なハードウェアスタートアップ企業でありながら、英語学習のため人口知能を利用したコミュニケーションロボット、「Musio」を日本国内で限定販売するという挑戦に乗り出している。

「人と人、人とロボット、ロボットとロボット、さらには人以外のペットなどとのコミュニケーションなど、実生活におけるニーズに応える友達感覚のコミュニケーションロボットを作りたい。」
そうビジョンを語る同社CSOのブライアン・リー氏に、Musioの開発のために結集したチームの歴史、日本市場への想い、そしてハードウェアスタートアップとしての挑戦を語っていただいた。

 

チームづくりの背景

 
-現在は日本の他にも香港にも支社を展開するなどグローバルに活動されているAKA社ですが、韓国とアメリカをメインの拠点に開発を始められた当初のチームの状況をお聞かせください

 
ブライアン・リー氏(以下、リー):弊社のCEOは、韓国の最大手の英語塾の共同設立者だったのですが、その後、アメリカで投資家としてIT企業の投資に携わったのち、人口知能を開発するAKA社を設立しました。アメリカと韓国に研究開発の拠点を置いて、アメリカではディープラーニング機能を備えた人工知能の開発を、韓国ではそのサポートとハードウェアの開発を行っていました。
メンバーはほぼエンジニアで、アメリカのハーバード大学やMIT、ドイツのマックス・プランク研究所、日本の京都大学などから優秀な若い研究者が集まっています。他にもアメリカの標準技術研究所や、韓国のサムスンで人工知能の開発をしていたエンジニアなど、そういったメンバーが「もっと面白いことをやりましょう」という呼びかけに集まって出来たチームです。

 
-CEOのアントレプレナーシップの元に、世界各地からエンジニアが集まって始まったチームなのですね。当初からハードウェア開発のスキルセットを持ったメンバーが集まっていたのですか?

 
リー: 元々は人工知能エンジンを作るために、ソフトウェアエンジニアが中心となって作られた会社でした。音声ロボットといっても、携帯のアプリとして開発したりなど、いろいろなコマーシャライズの形があると思いますが、私たちの夢はソフトエンジンを搭載したロボットを実物として開発すること。どうしても、話しかけたくなるような可愛らしいデザインのロボットを作りたかったのです。
そのためには人工知能エンジンを実機としてのロボットに搭載するための技術が必要になります。そこで2014年にはウェアラブル機器の開発を行っていた韓国のベンチャー企業を買収し、ハードウェア製作に関するスキルを持つ社員を採用しました。他にもデザイナーの採用もするなど、ハードやデザイン面に絞ってチームを再編成したのは、ここ2年ほどの出来事です。

 

ロボット市場における優位性


 
-そのようにグローバルなチームを抱えるAKA社が、Musioの販売を日本限定で行う理由についてお聞かせください。

 
リー: 日本への関心はもとよりあったのですが、実際のビジネス展開をまず日本に集中させた理由としては、2015年6月にクラウドファンディングのIndiegogoを利用した予約販売がきっかけでした。1,000万円にいたる受注を集めたなかで、その金額の半分が日本からの購買だったということに驚きを覚えました。
日本国内の英語教育や、コミュニケーションロボットの市場規模はおよそ1,000億円。ロボットに興味を持ち、Pepperなどすでに様々なコミュニケーションロボットが商品化されている日本では競合が多い分、市場が大きいのです。

 
-—日本のロボット市場の規模感と、英語教育ロボットとしてのMusioのプロダクトデザインの関係性についてお聞きしますが、これはどのような戦略があってのことだったのでしょうか。

 
リー: ビジネス戦略としては、日本では英語教育に役立つロボットを展開しようとしています。というのも、ロボットに関心がある層以外にもMusio を普及させるためには、ロボットを買うことでユーザーが金銭的なメリットを得られるような、現実的な側面を考えなければならない。
そこで私たちが注目したのは、Googleに買収されたNest社[注:温度調節機などのスマートホーム製品を手がけるIoT企業]の事例でした。彼らの活動方針は、「技術があるから、それを届ける」というだけでなく、エンドユーザーの家計におけるメリットを明示しているんですね。
日本では英語に対するニーズが高まっています。しかし、英語を勉強する環境を作る問題点は、費用にあります。大手の英会話スクールではおよそ1ヶ月で1万円〜2万円のレッスン料が必要になり、費用対効果の面で疑問が残ります。一方で英語教育ロボットであれば、いつでも話したい時にロボットに話しかけられ、英語が学べるのです。

英語にはコミュニケーションが1番大事です。そこで、英語でコミュニケーションをとれるロボットを開発して、日本での市場を広げていこうと考えました。Musioを7万2000円で購入すると、追加費用無しで英語の勉強ができる。その点が英語教育市場におけるMusioの優位性になります。

 
-コミュニケーションロボットの領域において、ディープランニングという機能が備えている優位性はどのような点に集約されるのでしょうか
 
リー:例えば、Siriは命令を受けると、組み込まれたシナリオに沿ってアクションを返してくれます。しかしMusioは、こちらから問題を出して解かせるという一方通行的なコミュニケーションだけではなく、会話をデータとして蓄積し、ユーザーごとにパーソナライズされた会話ができるという双方向性を持っているのです。
ディープランニングとはまさに、ロボットとの会話に拡張性を持たせる機能です。例えば「ナナという名前の猫を飼っている」とか、「ナナの好きな食べ物はこれだ」とか、これまでの会話データの蓄積から文脈を形成し、顔なじみの友人のように新しい会話パターンをその都度生み出せることが、他の人工知能エンジンとの差になります。

 
-アプリではなくモノとして、コミュニケーションのための人格がそこに宿っていくのは面白いですね。

 
リー:もちろんSiriも優れた機能ではありますが、携帯の一部機能になります。しかしロボットとなりますと、ロボットが好きだから使いたい、というニーズも生まれます。プロダクトとしてMusioが目指すところは、2015年に話題となった映画『her/世界でひとつの彼女』に登場した人工知能、サマンサのように、頼んだことを行ってくれ、友達のように会話ができる存在なのです。

 

「MADE IN JAPAN」へのこだわり。

 
—先ほど2014年からロボット開発のためにチームを作り変えたと伺いましたが、その後のチームとしての歩みはどのようなものでしたか?

 
リー:現在はロボットの人工知能のエンジン部分を中心に、ソフトウェアの開発に集中していますが、ハードウェアエンジニアが筐体づくりによってソフトを正しく動かすためのサポートをしているという段階です。
弊社はコミュニケーション機能の開発に集中していますし、将来的には動くロボットを作りたいという希望もあるのですが、企業戦略としてすべて独自に社内開発するのか、他のメカニカル部門が優れた会社に依頼するのか、様々なことを考えなくてはなりません。現状では外部と提携する方法が可能性として1番高いのでは、とも思っています。

 

—11月にMusioのプロトタイプを発表してから、現在はソフトウェアの頭脳にさらに手足を与えるというところに差し掛かっているのですね。その手足を与える段階について、直面している課題はありますか?

 
リー:これは熱量をもったスタートアップ企業にはつきものの悩みだと思うのですが、「やりたいこと」がたくさんある一方で、実際に量産の段階に至った経験が足りないということですね。筐体や基盤部分の設計として、プロトタイプでは可能だったことが、量産ではうまくいかない。そういう課題に直面したときに、それを修正するための専門家のアドバイスやノウハウが必要だと感じています。プロトタイプと量産の段階では色々事情が異なるのだ、ということを改めて実感しています。

 

—量産の段階に入っていくなかで、日本の工場さんとのやりとりは発生していますか?

 
リー:まだ明確に決まってはいませんが、やりとりは進めています。もちろん、中国などで生産した方がコスト面でのメリットがあるとは思いますが、やはり我々はロボットベンチャーとしてメイドインジャパンのロボットを日本の市場に届けるというところにこだわりたいです。

 

—今後、ロボットに動きをつけること以外で、機能拡張についてビジョンはありますか?

 
リー:教育ロボットをきっかけに、電気をつけたり、買い物をしたりといったIoTハブとしての用途をもった家庭用のロボットを作りたいですね。そのために日本語のエンジンも開発しています。弊社のエンジンを他企業さんのロボットに搭載したりできるような、ロボットとエンジンが普及するような社会を実現したいです。

 
—コミュニケーションロボットを取り巻くプレイヤーが増えることで、アニメや漫画で描かれていたような風景がこの日本で現実のものになろうとしているのですね。本日はありがとうございました!