2016年になって、「IoT」という言葉がますます身近なものになりつつある。この潮流のなかで、エンジニアが発信する「モノ」のイノベーションに対する世間一般からの注目度・期待感も、今までになく上昇している。しかし、大手メーカーを中心にモノづくりの現場を覗いてみれば、エンジニアという職種もまた一介のサラリーマンである以上、トップダウンのプロジェクトコードのなかでしか動けないという制約があるのも事実だ。
もしも、個々のエンジニアが持っている技術力を結集させ、自由闊達なアイデアを交換するようなプラットフォームが実現したとすれば、そこからはどのような革新的なプロダクトが生まれてくるのか?

そこで今回、SPERO編集部は、世界初のIoT乾電池、MaBeeeをリリース予定のノバルス株式会社CEO、岡部顕宏氏にインタビューを行った。
MaBeeeの開発母胎となった「ヤミ研」は、そのネーミングからもわかる通り、企業の垣根を越えたエンジニアたちの非公式サークルとしての側面を持つユニークな組織だ。
岡部氏は、ヤミ研の組織作りやプロジェクト管理の方法、さらには徹底したユーザーヒアリングへのこだわりを語った。

 

MaBeeeとヤミ研、それぞれのスタートライン


-MaBeeeの商品ホームページが「工作」という言葉に焦点をあてていることからも、開発の裏側には「一緒に遊ぶ」というコンセプトがあるように感じました。このコンセプトはどういう背景から生まれたのでしょうか?

 
岡部顕宏氏(以下、岡部): 単純に、MaBeeeの開発に携わったエンジニアの「子どもと一緒にプラレールで遊びたい」という想いがきっかけとしてあったのですが、よくよく考えてみれば、これまではお父さんと子どもがおもちゃで一緒に遊ぶという時にも、組み立てやセットアップまでがお父さんの仕事、遊ぶのは子どもの仕事、というように本質的なところでは一緒に楽しんでいないという状況がありました。
だけど、スマホアプリと連動した乾電池を中にいれるだけで、ジャイロや音声認識など様々なパターンでオモチャをコントロールすることができる。「これでお父さんも遊びに参加できるのでは?」というアイデアがMaBeeeには込められています。

ただ、このコンセプトに関しても、当初から「オモチャをどう動かすか」というテーマがあったのではなくて、「会社の中で出来ない企画はありますか」という会話の中で、「ありますよ」「周りにそういう人がいますよ」といった声を聞いてディカッションをする機会が先にあったんです。
そのなかで、先ほど話したエンジニアさんとの出会いがあり、その方は機械まわりのエンジニアだったのですが、そのアイデアを元にしながら、ソフトウェアを組むメンバーなどがそれぞれのパートで力を合わせて最初の試作品ができあがったのがMaBeeeでした。

 
—その段階でも、それぞれ企業に所属しているエンジニアたちの課外活動のような「遊び感覚」がヤミ研の雰囲気にはあったということでしょうか。

 
岡部: むしろそのような感覚の方が強かったのではと思います。活動の結果としてモノが徐々に出来上がっていくにつれ、メンバーの内部でも「面白いね」という盛り上がり生まれていきましたし、部活動のように「もう少し頑張ってこうしてみようか」という“熱”も広がっていきました。

 
「ヤミ研」という名前が体現しているように、企業のなかで埋もれた状態にあるアイデアをフックアップして、一緒に楽しいものを作ろうという思いから生まれた活動だったということですね。

 
岡部: そういうことですね。私自身としても、前職で新規事業の企画に携わるなかで、通る企画があれば通らない企画があったり、採用されたことに納得していた企画であっても、稟議書が社内で回るうちに予想していたものと大分形が変わってしまったり……といったようなことが多々ありました。
プロジェクトの予算がついて始まる企画があれば、そこで採択されずに実現できないアイデアもある。これはどこの組織でもあることですが、最近ではより一層予算の管理が厳しくなったことで、「じゃあ試しにやってみようか」というわけにもなかなかいかなくなっていると感じています。なので、当初はそういった仕事上での悩みについて、様々な方に意見を聞くための緩やかな場を設けた……というのがヤミ研をスタートさせた背景でした。

 

リソースをどう集め、管理するか

-大企業に所属している優秀なエンジニアが、移籍することなくプロジェクトに参加することができるという社外サークルとしての側面を持っているヤミ研ですが、実際に参加されているエンジニアの方々は自然発生的に集まってきたのですか。

 
岡部: そうですね。ただし、MaBeeeのプロジェクトを進めていくなかで、「このスキルが足りない」と感じた時は個別に探したりもしました。
具体的には、電気回路を組むエンジニアと、その版面の上にのるソフトウェアを組むエンジニアが中心となってスタートしたプロジェクトでしたが、ソフトウェアを組んだ後は、今度はスマホアプリをどうするのかという問題が出てきました。
次に、スマホアプリと技術的にはつながることが確認できると、今度は構造的にどういうプロダクトデザインにするのかということで、単三電池という形状は決まっていましたが、少しでも格好良いものにしたいということでデザイナーが必要になりました。それから、電池の脱着がしやすいといった詳細な基本設計などを仕上げていきました。

 
-量産のためのオートメーション化できる基盤ですとか、金型設計はどこからノウハウを得ましたか?

 
岡部: 金型設計に関しては専門家を探しました。「困っていることをオープンにすることで、人は助けてくれる」ということを人集めの経験から知りましたし、電気まわり、メカ設計、アプリ設計、さらには全体を管理するプロジェクトマネージャーと、プロジェクトの進行のなかで最終的にチームが集まっていったのが凄く嬉しいですね。
とはいえ、ヤミ研メンバーは勤め先の企業が別にある人たちなので、開発を進めていくにあたってノバルス社としての技術者をどう集めるかといったところで冷や汗をかく瞬間がありました。メンバーが忙しくて参加できない、という理由からプロジェクトが停滞した時には、正規のメンバーがいないと回らないな、と思いました。

 
-社内外にメンバーが分散していると、人的リソースや工程を誰が管理するのか、という問題が発生しませんでしたか?

 
岡部: ノバルス社として正式にスタートするまでは、誰がプロマネという定義もなく、アメーバ的な役割分担のなかで誰かが自発的にやっていました。ただし、そのままでは会社として本格的にやろうと思うとQCDが守れない、という問題に当然のことながら直面することになります。

今では正規のプロマネが社内にいますが、スタートアップとしてのスピード感や、メンバー1人1人の領域が幅広い点など、従来のプロマネとは異なる役回りが必要になっているかもしれません。前の会社では部署として担当する範囲が定められているわけですが、今は全くそんなことがない、全行程をやらなければいけないというのが当たり前になっています。

 

—— 自分の専門知識がないところまで工程管理をするとなると、いささかプロマネの負担が大きいように感じますが、ヤミ研として商品開発を行うなかで、新たなプロジェクトの管理方法として採択された仕組みなどはありますか?

 
岡部: 今も手探りながらその方法を探している最中ですが、ヤミ研の場合、マインドセットの部分に、プロマネの負担を軽減する大きな要素があると思います。大企業であれば、技術者は自分の領域外のことに関しては「我関せず」の状態で、結果としてプロマネがあたふたすることになると思うのですが、ヤミ研の場合ではその発想自体が悪という精神風土がエンジニアサイドにもあります。
というのも、「言われたことをやる」のではなく、「なんとかしなくては」という底力が人を呼んでいるからだと思います。そういう輪がどんどん広がってくれれば、さらに面白いことができると思いますし、エンジニアの側でも「領域が広がっている」「いい勉強になっている」という感想を耳にします。

 

スタートアップとしてのミッション


 
—ヤミ研の取り組みを今後も続けていく中で、世の中に届けたい価値やビジョンはありますか?

 
岡部: 2つあります。まず、モノづくりのスタンスという点では「何でもすぐに作ろう」というわけではなく、真摯に使う人のことを考えた「誰かのためにあるプロジェクト」を始めていくべきだと思っています。さらに、大々的に開始したプロジェクトを色々な理由で諦めてしまわないように、小さな単位でプロジェクトを回しながら「たった1人のためでもその人が喜んでくれるのだったら」というアイデアを成長させていくのが理想ですね。

 
—小さくプロジェクトを回すとなると、世の中の潜在的ニーズに対しての仮説の立て方も、従来の大企業のなかで採択されてきた方法とは異なるものが必要になるでしょうか。

 
岡部: そうですね。従来の大企業的なやり方では、リサーチ会社や調査会社に予算を使って仮説を立てていましたが、これからは大きなレポートを見るよりも、肌感覚としてニーズを直接拾いに行くような活動を企業の枠を超えてできるようになれば、新しい面白いものが生み出せると思います。
この考えにたどり着くまでには、「ちゃんとユーザーヒアリングから始めなくては駄目だ」という人からの教えもありました。この言葉を胸に、MaBeeeの開発に際しても、週末の公民館に直接足を運んで親子連れの方に直接意見を聞くということをやっています。最初は大変だとも思いましたが、確証を得るものが無かったので、ニーズの実情を突き詰めていくにはそれしか方法はありませんでした。

 
—もう1つのビジョンについて教えてください。

 
岡部: IoTはいまだ前例の少ないビジネスモデルなので、そのハードルを乗り越えて生まれてくる商品には、「凄い」と言われるものがあって然るべきだと思います。そのためにも、もっとモノづくりの裾野を広げられたら良いなと思っています。
先日、とある女子高校で「MaBeeeを使って学校生活を楽しくする方法を考えよう」という授業を行ったのですが、それくらい気軽にモノづくりやIoT製品が楽しめるような活動を広めていきたいです。「日本全国ヤミ研化」じゃないですけど、大企業に勤めているエンジニアと近所の小、中学生が一緒になってチームを作ったりするような取り組みが増えるといいですね。

 
—企業の垣根を越えた活動が広まっていくことで、ものを作ることが身近に感じられる社会、できたものに対して「いいね!」と言い合えるような社会が実現できそうですね。本日はありがとうございました!