いかに都市が〈変化〉の中心地であるといっても、モノのイノベーションの速度に都市そのものの変化のスピードが追いつくのは至難の技。その結果、世界の各都市には環境汚染をはじめとする様々な交通問題がいまだ未解決のまま山積している。
今回、SPERO編集部がお話を伺ったGAIUS AUTOMOTIVE(以下GAIUS)は、フレームの軽量化に炭素樹脂を用いた電気自動車(EV)、「Rapid-e 2.5 Wheel」の開発を行う傍ら、EVによるカーシェアリングシステムの確立を通じて、「グリーンで持続可能な都市環境」を達成することを目指す台湾を拠点としたスタートアップ企業だ。
自動車産業というレガシー産業に参入したスタートアップを待ち構えるハードルとはなにか。そしてそれをどう乗り越えていくことが可能なのか。GAIUS社CEO、アンソニー・ウェイ氏にインタビューを行った。

 

都市交通市場への参入背景

 
-まず最初に、ウェイさんがGAIUS社を立ち上げ、スクーター事業やカーシェアリング事業に参入しようとお考えになった背景について教えて下さい。

 
アンソニー・ウェイ氏(以下、ウェイ): 私個人はもともとアメリカで生まれたのですが、約10年前にアメリカから台湾に帰る機会がありました。台湾に戻ったときにまず驚いたのは、スクーターやモーターバイクの数の多さです。当然、空気が悪いですし、通勤時間などに人々をみるとみんなマスクをして運転している。都市環境として快適でない上に、うるさいし、どんな小さなスクーターでもガスを排出しているのです。この状況に直面し、移動手段を電気化したらどうかと考え始めました。考えれば考えるほど、これはいいビジネスとしてスタートできるのではと思うようになったのです。
それから、台湾のモーターサイクルの市場を調べ始めました。驚いたのは、その市場規模。年間約120万台のモーターバイクが生産されていて、すごく大きな市場だと感じました。もし電気バイクを自分が作りたいと思ったら、それをデザインして、だれかそれを形にして作ってくれるひともいるだろうと思いました。

 
-「都市交通産業」という成熟した市場にスタートアップとして参入することの難しさについては当初から感じていましたか?

 
ウェイ: おっしゃる通り、自動車産業は約100年間の歴史がすでにあり、自動車の組み立てに関してはここ約50年と、従来型の自動車ビジネスは十分成熟している状態です。なので、スタートアップでわれわれが出来る事は、彼らが現状の市場でまだやっていないこと、現在の市場のニーズがまだ満たされていないところを探すことになります。
そこでわれわれが設定したゴールは、第一に「社会に個人的な移動手段をもたらすこと」、第二に、「排気ゼロのエコ交通により、持続可能な環境を生み出すこと」。

都市部、とくに世界の大半のメガ都市は、交通問題や公害の問題を抱えています。この都市部の解決策として電気自動車を考案したのは先に述べた通りでしたが、自分たちはスクーターとトラックの中間にあるような3輪のビークル(3 wheel vehicle)という新しいセグメントを作りました。
この2.5 Wheelという製品は一見普通のモーターサイクルのようですが、3倍から4倍の荷重量があり、しかしながらトラックほど大きくはないので小回りがきく。これがわれわれの考えた都市交通市場への参入の仕方でした。

 

世界規模のユーザー開発

 
-現在GAIUS社は世界各地でのユーザー開発を進めていますが、「台湾から世界へ」というに動きに関してなにか意図があれば教えて下さい。

 
ウェイ: 交通に関するイノベーションを考えたときに、台湾はそのファーストステップとしてとてもいい場所でした。経済成長の著しい土地であるだけでなく、なによりもスクーター産業があります。台湾は先にも述べたGAIUSのゴールを達成しうる、もしかしたら唯一の国かもしれないと思いました。
日本では電車や地下鉄など交通のインフラがとても整っていますが、台湾は状況がかなり違います。時間の節約にもなり、便利なうえに安いモーターサイクルに高い需要があることが、台湾の特別な文化だと思います。

 
-日本やヨーロッパの市場との出会いについてはどのような経緯がありましたか?

 
ウェイ: 台北での自動車ショーに参加したときに、顧客と出会い、ヨーロッパや日本がとても魅力的な市場であると知りました。道が狭い、小さい、古い都市であればあるほど都市交通に課題を抱えています。一方、アメリカのLAは高速道路があり、車は大きく、道はまっすぐ。彼らはわれわれのプロダクトを求めていない。日本のような国、特に東京・大阪のような都市はわれわれのプロダクトがとても適している都市なのです。
さらには、これからはCOP21(=国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が与える影響もあります。パリで開催されたこの会議の後では、多くの国が炭素税、排出権取引などを導入していますが、この決定によって、物流会社などは、多くの炭素税などを支払わねばならず、利益に大きなダメージが加わります。政府の要求に従うように、われわれの排気ゼロのプロダクトを広めることによって新しい解決策を提供したいと思います。

 

人材集め・資金面でのハードル

 
-次に、GAIUS社のチーム編成について教えて下さい。創立メンバーはどのように集められたのですか?

 
ウェイ: われわれのチームは、大学生時代からの付き合いのあるメンバーがコアにいます。かれこれ20〜30年くらいお互いを知っている仲で、若いときから一緒に数多くのことに取り組んできました。
開発や製造においても部外者はおらず、すべてを社内生産でまかなっていますが、適宜外部パートナーとの相談を進めています。現状ではトライアル生産を行っている段階で、2018年までには一年に10,000台の量産を目指しています。

 
-量産を目指していくうえで、人が足りないなどの悩みはありますか?

 
ウェイ: 個人的な課題としては、ときにCEO、ときにマーケターと役割がたくさんあるうえに、対外交渉を行うのも私なのでいつも時間に追われていますね。
会社としては、やはりいい人材を確保する必要があります。すでにいい4つのグループ、若く優秀なエンジニアチームがいますが、台湾はいまだ大企業信仰が根強いこともあり、採用において課題を抱えています。
人材難の短期的な解決策として、フランス政府から資金とサポートを得て新しくパリにオフィスを構えたのですが、ここでの人材確保をしている段階です。

 
-プロダクトの普及にむけて追い風が吹いている現在だからこそ、事業面で直面されている課題などはありますか?

ウェイ: われわれは小さなチームで動いていることもあり、機能試作を作ることはすごく得意なのですが、10,000台の量産を目指すとなると、工場やISOシステムなどを新たに設立する必要があるためハードルがかなり跳ね上がります。おそらく、これらがいま我々が直面している大きなチャレンジで、ひとつひとつ乗り越えていかねばならないところです。
さらには、これらのハードルを乗り越えていくための資金集めも大きな課題のひとつです。ベンチャーキャピタルや、コーポレートベンチャーキャピタルと話す機会を設けたり、スタートアップをサポートしてくれる良いエンジェル投資家を見つける必要があります。これらを成就させるには、かなりの時間を割かなくてはいけません。

 
-具体的にはどのような解決策が想定できていますか?

 
ウェイ: 現状の戦略としては、まず50のプロトタイプを作成し、顧客の仮想注文を試すことにより購買意欲を数値として示し、投資家を説得するという手段があります。さらには、自動車技術の共同開発を通じて、技術の供給先からの投資も考えています。自動車業界で例えるならば、トヨタがダイハツやヤマハに投資するような感じでしょうか。

 

これからの挑戦

 
-現在、2.5 Wheelの量産段階に差し掛かっているとのことですが、他にもカーシェアリング事業など複数のプロジェクトを抱えているなかで、それぞれに対してどのように目標設定や工程管理を行っていますか?

 
ウェイ: それぞれの事業ごとに時間とリソースを分け、短期・中期・長期と異なるタイムフレームのなかで取り組むことができています。現状での短期目標は、2.5 Wheelの最終組み立てを社内で行い、一日40台を生産すること。これを達成するためにはかなりの人数が必要となるため、ここでも人材の確保が一番の課題となっています。この問題を解決すれば、早いスピードで製品を顧客にお届けすることができると思います。

&中期的な目標は台北でのカーシェアリング事業を成功させることです。前例となる仕組みが出来上がれば、各国の都市にコピー&ペーストできるため、まずは台湾での成功事例を作ることですね。

長期的な目標は自動運転車の開発です。現段階でもすでに、オックスフォード大学と連携しながら3Dレーザースキャナの開発を進めています。将来的には、自動運転タクシーによって都市交通における高齢化の問題を解決することもありえます。

 
-これらすべての事業を同時並行的に進めるのは大変ではありませんか?

 
ウェイ: 現状は3つのタイプのビジネスがあり、同時並行的に取り組んでいます。しかし将来的には、このビジネスを3つの分かれた独立したものにするのがいいだろうと考えています。われわれとしても、いつも必ず次に何をするかを計画立てているわけではなく、そのときに何か機会やチャンスがあればそれを選んでトライしているのです。
それによって複数の出口戦略を確保し、事業ごとにIPOを用意しながら、スタートアップとしてのスピード感のなかで事業を拡大させることができています。

 
– 「持続可能な都市交通」の構築という大きなビジョンの達成にむけて、企業戦略を狭めず立ち向かっていくということが大切なのですね。本日はありがとうございました!