二次元キャラクター愛好家のあいだには、お気に入りのキャラクターを「嫁」と呼ぶ文化があるが、秋葉原を拠点とするIoT企業の手によって、電脳世界からユーザーの部屋へ「逢妻ヒカリ」という二次元嫁が舞い降りた。

そんなオタクにとっての大きな夢を実現するプロダクトが、ホログラムでキャラクターを投影する室内用コミュニケーションロボット「Gatebox」。今回は、その開発を手がける株式会社ウィンクルのCEO、武地実氏にインタビューを行い、Gateboxを通じて実現したい体験や、過去の失敗からさらなる挑戦に向かわせる原動力についてお話を伺った。

 

GateboxはIoT業界への挑戦状


 
—— Gateboxの商品ページを拝見して、「日常」と「非日常」との合間にいるとても面白いプロダクトという印象を受けました。「萌え」×「IoT」を志した最初の契機はどういったものでしょうか。

 
武地実氏(以下、武地):最初はとにかく、「初音ミクと一緒に暮らせたら最高だな」と思ったのがきっかけです。

 
—— と言いますと?
 
武地: 会社の立ち上げのきっかけとなった最初のプロダクトは、スマホアクセサリーだったのですが、その量産・販売が終わったタイミングで、「どうせやるなら次はもっと面白いことをやりたい」と思いました。さらに言えば、現在のIoT業界に対して個人的に不満があったので、よりIoTの業界をもっと面白くするためにも、「今までの1年間の経験を活かして何かやりたい」と思っていました。
そこで、自分が一番クレイジーになっているものは何か、自分自身にいつも癒しや勇気を与えてくれているのは何か考えたんですね。それでやはり、アニメや漫画、初音ミクのような二次元のキャラクターが、画面の中ではなく日常生活に更に近付けば、もっと生活が楽しくなるのではないかと思うようになりました。

 
—— 現在のIoTに不満があると仰いましたが、どのような傾向に対して不満をお持ちでしょうか。

 
武地: 業界全体としては2つの傾向があると思っていて、1つにはスマホでコントロールするもの、もう1つは自動で何かしてくれるもの。そのようなIoT商品が増えることによってどうなるかというと、スマホに紐づくプロダクトは結局全部自分で操作しないといけないですし、逆に、自動過ぎても返って不気味で生活自体が無機質になってしまいます。デザインも欧米かぶれでスマートなものが多くてつまらないと感じています。

 
—— なるほど。それぞれのIoT企業が独自性をだそうと努力されているとは思いますが、Gateboxはコミュニケーションロボットであると同時に、バーチャルリアリティ上のキャラクターでもあるという点においては確かに、昨今の文脈からすると新機軸のプロダクトと言えそうですね。
ちなみに、「二次元のキャラクターと暮らす」というコンセプトを思いついた当初から、ホログラム投影を用いるというアイデアはあったのでしょうか。

 
武地: そうですね。VRを日常生活の中に持ち込むというコンセプトがあったとして、ヘッドマウントディスプレイを付けようと考える人もいるかもしれないですが、実際にそれを毎日付けて生活する人はなかなかいないと思います。僕としては、キャラクターと一緒にテレビを見たりご飯を食べたりという体験がしたいと思っていたので、スクリーンに映したり、ヘッドマウントディスプレイを使ったりという手段ではその体験が得られない。

ホログラムの利用に関して言えば、初音ミクがすでにホログラムのライブを行っていたりと、リアルな場面での活用事例があったので、その仕組みを利用すれば、ある程度「ここにいる感」というのが出せるだろうと思いました。

 
—— 技術ベースではなく、体験ベースでコンセプトを練られているということですね。

 
武地: 仰る通りです。IoTもホログラムも、その体験のための手段だと考えています。究極的なことを言えば、キャラクターが隣にいる感覚さえ伝わればいいのです。例えば、好きなキャラクターと一緒にテレビを見たい時に、彼女の方を見なくても一緒に見ている感覚を味わうことができれば良いと考えています。

 
—— 実現すれば「逢妻ヒカリ」のキャラクターとともに歴史に残りそうですね。素人目には、技術レベルでの困難が多いのではないかと感じていますが、実際にエンジニアとして、今現在ここが難しいと思っているところは何でしょうか?

 
武地: ホログラムの投影機能を、よりリアルに感じられるようにするのは難しいですね。こちらの課題は長期スパンで考えているので、これから修正していこうと思っています。直近で一番苦労しているのはコミュニケーションの部分です。音声認識がまだまだ不完全なので、どうしても誤認識してしまいます。
音声認識だけに頼らずに、手を振ったり顔の表情だったりを用いた、いろんなセンシングを考えようと思っています。人間も視覚から70%の情報を獲得していますので、実際に画像認識も増えた方が、より人間に近いものができるのではないかと思っています。音声認識使わずに、どこまで認識できるのか実験中です。

 

「失敗」を機に、さらなる挑戦を選んだ


 
—— ウィンクルとして第二の挑戦となるGateboxですが、スマホアクセサリーを作っていた時のチームのままGateboxの開発を進めたのでしょうか。

 
武地: そうですね。当時は2人しかメンバーがいなかったので、そこからメンバーを増やしていきました。僕がwebデザインで、もう一人はwebソフトウェアのエンジニアでした。なので、ハードウェアが出来る人間は基本いませんでした。

 
—— 2年前に量産・販売のご経験をされた際には、ハードウェアスタートアップとしての製造過程の関門は全てお2人で乗り越えられたということでしょうか。

 
武地:全部自分たちで作ったということではないです。ハードウェアの経験がなかったので、どうやって作られていくのかもわかりませんでした。どれくらいお金がかかるのか、どこにどういうリスクがあるのかというのがわからなかったので、全部不安でしたね。
量産過程に関しては量産のディレクションができる外部の方を紹介していただき、その方と連携して進めていました。

 
—— ノウハウがないからこそ直面した課題もあるかと思いますが、その点はどうでしょうか。

 
武地:基盤の作り直しなど、改善に物凄くお金と時間がかかります。次に、金型を作るタイミングも課題でした。特に1つ目でいうと僕自身がソフトウェア出身なので、とりあえず作ったら一回リリースして、そのあとアップデートすれば良いという考え方でしたが、それが全く通用しません。完璧なものを作らないと量産できないという、そもそもの考え方の違いがありました。

 
—— 量産・販売までを2人というチームで辿り着いて、その成功を基に今回のGateboxに着手したのでしょうか。

 
武地:成功というよりは、失敗だったと思っています。実際売り上げは全然なかったですし、事業としては完全に失敗していたので、残ったのは経験値だけでした。具体的なプロダクトとしては、AYATORIというスマホアクセサリーを作りました。それはアプリに自分の趣味を登録しておいて、同じ趣味を登録している人が近づくとハードウェアが光り合うというものです。
これは、僕自身が人に話しかけるのが苦手なので、話が合う人と繋がりたいというところから作ったのですが、そもそもAYATORIを持っている人がたくさんいないといけないので、使われるシーンが限定されてしまいました。また、中に基盤を入れているので一個あたりの単価がどうしても高くなってしまいます。コスト面でも、ハードウェアスタートアップには厳しい課題がありました

 
—— 今回のGateboxでは、「二次元嫁と暮らす」という明確なニーズがあるので、単価を下げなくても購入に結びつきやすいということでしょうか。

 
武地:そうですね。やはりスタートアップだからこそ大きな夢を実現することが一番大切だと考えています。そもそもハードウェアスタートアップの商品はどうしても単価が高くなってしまうので、それでも買いたいと思える商品があるとすれば、それは人の夢が詰まっている物なのだと思います。今後も、これがあったら絶対凄いと誰もが思うような、夢のある製品を作っていきたいです。

 

プロジェクトをやりきる地力


 
—— AYATORIにまつわる失敗経験から、今回のGateboxのための資金調達されたのでしょうか?秘訣があれば教えて下さい。

 
武地:資金調達については、企画を立ち上げる時に2000万円を調達しています。その投資家さんとは調達する1年前からの知り合いでした。何を作るか決めていない状態でしたが、過去一年のあいだに、AYATORIをやりきった上で失敗していることも評価してくれていました。
秘訣と言えるようなものではないですが、その場ですぐにお金の話をするよりは、長年のお付き合いというか、過去の自分の状態も知っている人じゃないと、そもそも投資に踏み切るのは厳しいのでないかと思います。

 
—— ひとつのプロジェクトをやりきったという地力の部分が評価されたということですね。実際、その走り続けられる力はどのようなところから湧いているのでしょうか。

 
武地:どうせやるなら凄いことをやらないと勿体無いと思っているのが理由だと思います。また、家庭もプライドも何も守るものがない状態なので、とことん攻めることが出来ているのかもしれません。
極端に言うと、家庭がないので安定的な収入も必要ないですし、会社を立ち上げる前には、半年くらい働かずにニートやっていましたが、その時から気持ち的には変わっていません。ニートの時はアニメに夢中になっていて、今は仕事に夢中になっています。やっていることが変わっているだけですね。

 
—— 挑戦に愚直なのですね。最後に、そのような挑戦をより続けやすくするためにも、ハードウェアスタートアップを取り巻いているエコシステムそのものに対する武地さんなりの提言はありますか?

 
武地:AYATORIの失敗からすると、とことん夢のあるものが成功するべきだと思っています。ハードウェアは特に、出来ることベースでのアイデアが多いという印象なのですが、実現が容易そうな小さくまとまったアイデアでは誰も支援しません。見せ方にもよりますが、結局そういうスタートアップは資金を調達出来ないことが多いので、量産できないまま終わってしまうと思っています。
それが常態化してしまうと業界そのものが痩せ細ってしまうで、大きなプロジェクトを最後までやりきれる人にこそお金が流れるような仕組みがあると良いと思います。

 
—— 是非その姿勢が広まって欲しいと思います。本日はありがとうございました!